常石造船と三井E&Sの提携が意味すること

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三菱重工三井E&Sの艦艇事業を譲り受けるなど、日本造船業は再編途中にあります。

本日、その三井E&Sの造船部門である三井E&S造船が、常石造船と資本提携する旨が発表されました。

以下、提携についてみていきたいと思います。

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三井E&S

三井E&Sといわれるとあまり知らない方も多いのではないかと思います。

今回の主役は三井E&Sホールディングス傘下で、主に造船事業を行う三井E&S造船です。古くは三井造船としてその名を知らしめてました。

藤永田造船を傘下に入れるなど、艦艇建造も行っていたため、建造実績には護衛艦”ふゆづき”や、輸送艦”おおすみ”などもあります。

また、商船ではVLCC(20万トン以上積載可能な原油タンカー)建造可能な工場も有しており、規模の大きさがうかがえます。

現在、三井造船は自社工場として玉野艦船工場、千葉工場を持っております

艦船工場という名前ですが商船や巡視船の建造も行っております。ちなみに、三菱に艦船事業譲渡後も玉野で護衛艦が建造されることを予定しているそうです。

一方、千葉工場は撤退が表明されており、2021年3月千葉工場からの造船事業の完全撤退する予定です(三井E&S、千葉工場の造船から撤退 200人希望退職)。

そのほか、国内には由良工場(川崎重工と共同で船舶修繕事業を行う)、海外にはyamic(江蘇揚子三井造船のこと。三井造船、三井物産、揚子江船業の合弁企業)も持っております。

少し変わった造船所:江蘇揚子三井造船有限公司
地上建造という珍しい造船所。日中合弁企業のこの会社を少し見てみましょう!

常石造船

逆に、常石造船の名はそれほど有名ではないのかもしれません。

※ちなみに、私が大学院生時代に研究していた企業の1つでもあります(笑)インタビューにも行きましたねそういえば。

会社の歩き方 注目企業版2009 常石造船カンパニー

 

国内建造量ランキングでも上位に来ることはありません。なんせ、国内の工場は本社工場のみですから。

では、常石は弱小企業なのか?いえいえ、そうではありませんよ。

出所:「三井E&Sとツネイシ、造船事業で資本提携へ 国内3位」より。

 

実は、海外工場での建造量を含めると、一気に上位に食い込むのです。

というのも、常石造船の建造主体は海外工場にあります。本社工場はあくまでもマザー工場であり、新設計船の建造や海外労働者への指導が主となってます。

両社の建造船

大手企業の一角であった三井造船と、中手専業企業である常石造船。

実は、オイルショック後、三井はVLCCの建造からバルク船にシフトしてました。ただし、三井は千葉工場でしかVLCCの建造ができませんので、千葉からの撤退は事実上VLCCからの撤退ともとらえられます。

一方の常石造船はほかの中手企業と同様、バルクキャリアを中心にしております。かつては本社工場のほか多度津工場も有してましたが、現在多度津は今治造船傘下に編入されてます。

このように、両社は歴史も地位も違う一方、建造船主体は中型バルクなのです。

これまでの三井と常石の関係

実は、今回の提携より以前に、三井造船と常石造船は関係を持っておりました。

さかのぼること、約50年!日本が世界の造船市場を牛耳っていた時の話です。三菱や石川島播磨などの大手企業が国内シェア9割を占める中で、中手企業にもより高度化してほしいという政府の考えの元、集約がなされました。

この時、三井造船や常石造船と提携を組むこととなりました。

出所:落合功(2002)『戦後、中手造船業の展開過程 内海造船株式会社を例として』広島修道大学研究叢書より63項表3-1。 ※出典は運輸省船舶局監修(1976)『造船統計要覧』。

このように、1966年の段階で既に技術指導を三井造船から受けており、1974年には技術のほか業務提携を結び、三井からの役員を受け入れるまでに至ってました。

次に提携の話が出てきたのは、2018年5月の事です。詳しくは「常石造船 三井E&S造船と商船事業分野の業務提携契約を締結」(常石造船HPより)に書かれておりますが、共同研究開発や設計・製造技術の協力などを目的に結ばれました。

ただし、この時はあくまでも両社の経営の独立性を維持した上での話でした。

今回は資本提携を結ぶなど、両者のより一層の関係深化、つまりは経営の独自性にも影響を及ぼす程の内容でさえ厭わないと言うものです。

提携関係の内容

提携内容としては、艦艇事業を除く商船を対象としております。

これは、三井E&Sの艦艇事業が三菱重工に譲渡されるためですね。

一方の常石造船は艦艇事業に参入しておりません。個人的にですが、中国に自己資本の工場があるため、むしろ艦艇関係に関わりたくないのではと思えます。

 

さて、プレスリリースの内容を見ると、まずはこれまでの提携内容が書かれてます。

『当社と三井E&S造船は、2018年5月7日に商船事業分野の業務提携契約を締結し、これまで設計開発力やコスト競争力の強化及びこれらを通じた受注の拡大等に協力して取り組んで参りました。』

このことは、これまでの提携はあくまでも技術的側面にこだわっていたと、言い換えられます。それが、今回の提携では営業力、グローバル生産力など多岐にわたる提携内容であり、実質的に商船事業の共同化と言える物となりました。

互いの商品営業力、設計力、研究開発力及びグローバル生産能力をより一層相互活用する……(中略)……結果として両社の商船事業において持続的な成長を実現する

今後どうなるのか?

提携のメリットをまずは考えてみましょう!

三井造船側のメリット

三井側にとって最大のメリットは、常石造船の持つ海外生産や海外工場の運営、管理のノウハウなどを得られる点にあります。

これまで三井造船としては、海外での建造などは無いに等しく、しかし三井物産と中国国営の現地造船企業と合弁で造船所を展開しました。この運営・管理などを進めるうえで常石造船の持つノウハウは非常に有用となるでしょう。

また、千葉工場からの撤退により、三井の建造力は国内では玉野艦船工場のみとなります。玉野は建造船台2基と修繕ドック1基、海洋構造物用ドック1基を持つ工場ですが、船台の長さは276mと257m、横幅50mと43mであり、中型船の建造までのものです。

今回の提携により玉野と常石造船の建造設備、さらにはyamicの設備を持つようになり、規模はかなり増加しますね。

常石側のメリット

常石にとっては、VLCCの建造をも手掛けた三井との技術提携は競争力増加のために必要であり、また中国の舟山の工場を持つことから、yamicとの協業も視野に入れているのではと思います。

常石造船の建造力としては本社工場に建造船台1基と建造ドック1基、修繕ドック4基を持つ大規模な工場で、年間約12隻を建造できます(TESS64換算)。

この他フィリピンのセブ島と中国の舟山の両方に建造船台2基と建造ドック1基を持っており、企業全体で見ると船台5基にドック3基を持つこととなります。特にセブ島と舟山のドックは長さ450m、幅はセブが60m、舟山が40mもあります。

三井造船千葉の建造ドックが400m×72mですので、セブの規模が良くわかると思います。

現状で海外工場での建造によるコスト優位に加えて、今回の提携でより一層の建造能力の向上と技術力の増加が得られますね。

おわりにー両社提携がもたらすもの

海外工場を含めた場合、建造量では三井と常石を合わせて国内第3位に位置することとなります。

現在、世界的に造船業は再編中であり、今回の提携は国内に造船グループに圧力を加えることとなるでしょう。

 

国内造船業では今治造船(国内1位)とJMU(同2位)が提携する予定です。

今治JMU連合は海外工場を持たず国内での建造に集中しておりますので、この海外建造を中心とした企業による提携はある意味でインパクトを与えるものだと思います。もしかしたら、同様に海外建造を主体としている川重との提携もあるかもしれませんね。

※三井と川重の船舶事業の提携は、川重側のクーデターにより無くなったことがあります(笑)

 

さていかがだったでしょうか?

ここ最近はyoutubeの動画を見てブログに来られた方が多くおられます。やはり動画は偉大ですね。

今回の再編ですが、もし今治JMUと三井常石+川重なんてのが出来たら盛り上がるでしょうね。実現性は限りなく低いですが……。

一方、名村造船グループ新来島どっくグループは何かしらの対策を行うのか行わないのか。彼らの動きはつかみにくい部分があります。

中国は国営2社野統合により、世界シェアの2割を占める大企業が誕生しようとしてます。韓国でも1位2位の合併で同じく世界シェアの2割を取る予定です。

今治とJMUの提携は確かに国内では建造量が大幅アップしますが、中韓と比べるとまだまだ集約化が進んでおりません。より一層の集約化が必要と言えるでしょう。

それでは!

ことへいのお部屋
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