まずは日経新聞のこの記事2つをご覧下さい
そうです、ついに日本の造船産業が再編されることとなったのです。
~お品書き~
日本の造船産業、主役は今治造船が握る
今治造船、私のブログで何度も出てきた会社名ですね!JMUもまた同じく多々見られることと思います。なぜなら、建造量国内1と2位だからにほかなりません。ちなみに、日本の造船企業を軽く知りたい方はこちらの記事を、今治とJMUを比較してみたものはこちらをどうぞ。
世界の建造量は中韓が各30%ずつ、日本が20%のシェアを握っておりますが、参加企業数は大きく異なります。特に、中韓造船業は国内大手企業2~3社が建造量の大部分を占める一方、日本には規模の小さい中小の造船所が乱立し、各社が血みどろの争いを行ってます。
そのため、現状他国の造船企業と戦える国内企業は、多数のドックと子会社を持つ今治造船のみといっても過言ではありません。
発表の内容
さて、今回発表された内容は大きく次のように分けられます。
営業、開発、設計の共同化
まずは、今治とJMUが資本出資して新会社が設立されることとなりました。これは前回発表時にも言われてましたね。
新会社の事業内容は共同での商船の営業・設計・開発。
「ばら積み船や大型オイルタンカーなど、商船の営業・設計を手掛ける。
「共同で開発・営業会社を設立する」。
営業力の増加もさることながら、開発、設計人員の規模が拡大することは両社にとってとてつもなく喜ばしいことです。というのも、現在、国内には設計者が不足しており、それを育てる環境も失われつつあります。その点、今回の営業・設計の統合は両社にとってプラスに働くことでしょう。
また、開発に関しても事業内容に含まれております。同じ設計図で同じ船型の船を建造することのメリットはとても大きいです。部品の共通化はもちろんのこと、下請会社などにも経験効果が発揮でき、人員の流動化に大きく貢献できます。
出資比率は今治が51%と実権を握ることとなりました。JMUとしても、日本の造船産業の主体が今治であると認識しているのでしょう。もちろん、JMUの株主がIHIやJFEといった大手重工ですので、JMUが過半数を出資すると彼らにも気を配らなければなりません。社内政治の観点からもこの結果が最適だと思います。
建造船型の共同標準化
先にも書いたように、共同の開発と設計は、共通設計図による標準船戦略(シリーズ船)に他なりません。今現在、両社とも建造船は標準化されたものとなっております。この2社の異なる標準船を同じにしようというのが、恐らく開発を新会社で行う事の意味だと思います。
今となっては、各社顧客個々に合わせて設計するというのはマイナーとなりました。基本は造船会社が設計した標準船を購入し、一部変更を加えるのが主流です。上記画像はJMUの81BCと呼ばれるシリーズ船で、200隻以上の建造実績があります。
標準船と言っても、船舶の長さや幅、大きさなどは国を問わず各社似たり寄ったりとなってます。皆さんはパナマックスという言葉を聞いたことはないでしょうか?ちなみに、パナマックスとはパナマ運河を渡れる最大限の船型を意味します。
例えば、今治造船のパナマックス型は重量トン81、000tで全長224.94m、幅32.26m、深さ19.5mです。JMUの同型船は同じ重量トンでで長さ約229m、幅約32.26m、深さ約20mです。ほとんど同じですね。
このように、船舶の最大規模は各社共通の制限を考慮しなければなりません。その中でいかに他社よりも優位性のある船を開発し、設計し、建造するかというのが造船企業の競争の内容と言えるでしょう。そして、その点においてJMUは極めて優秀な技術者がいることに間違いありません。
一方、今治造船には愛媛船主と呼ばれる、世界でも有名な船舶オーナーたちと強力なつながりを持っております。国内の船舶のうち約3割は彼らが保有しているといわれており、香港やギリシャ船主と肩を並べるとまで言われております。
「省エネ化など環境関連の技術力が高いJMUと、国内外の船主などに幅広い販売ネットワークを持つ今治造船の強みを持ち寄る。」というのはそういうことです。
ロット受注と生産分業
私のブログを読んでいる方は何度も目にしたことと思います。そうです。ついにロット受注に対応できるようになるのです。
ちなみに、ロット受注とは一度に同型船を12隻受注するなど、たくさんの数量を受けることを意味します。日本企業の多くは自社の建造能力が少なく、一度に大量受注しても納期を間に合わせるだけの余裕がありませんでした。その為、ロット発注を求める顧客からは相手にされませんでした(国交省によると、17年の世界の船舶発注量の38%が5隻以上の複数発注だった)。
今回はJMU本体の株式の30%を今治が取得するというように、今治とJMUの関係がより一層深くなってます。つまり、新会社でロット受注した同型船を今治とJMUの両方の工場で生産することも視野に入れているという事です。
生産分業の例としては、今治造船が受注したVLCCを三菱に1隻建造を任せたという事例があります。三菱は今治、名村、大島と提携関係にあり、今治がロット受注したうちの1隻を建造する運びとなりました。ちなにみ、このことを三菱がプライドを捨ててまで格下の今治造船から建造委託を願ったという記事が多く見られます。真相は皆さんの判断次第です(笑)
これからどうなる日本の造船?
新会社がもたらす恩恵
まずはっきりとしたのは、両社の統合はないということです。提携はあくまでも営業、開発、設計にとどまっており、
①窓口の一本化
②共同船型と部品共通化
③ロット受注と生産分業、が目的と見られます。
今治は船のデパートを目指すとしておりますが、その主要な新造船はバルクキャリアです。もちろんVLCCや2万TEU型コンテナ船のような船舶も建造しておりますが、やはり主体はバルクです。
しかし、その大きさはスモールサイズからケープサイズまで幅広く扱っており、中には1船型のみを建造する特化工場も持っています。
一方、JMUも建造船種は幅広く取り扱ってます。しかし、今治のようにスモールサイズを建造することはあまりありません。今治が小~大型の船を建造する一方で、JMUは中~大型を主に建造しているといえます。
そして、船舶の規模は海峡や運河により制限がかけられます。今回の新会社により、両社が別々に設計している同程度の船舶を共通化できますね。
建造能力は大幅アップ
国内1位と2位の建造量を誇る2社ですので、生産能力もまた巨大なものとなります。ただし、JMUは艦艇や官公庁船の建造も行っており、例えば横浜工場では商船の建造があまり多くありません。またJMU舞鶴では商船建造から撤退し、艦艇修繕に特化することが以前発表されました。
それでも、両社を合わせての新造船建造能力は他の国内企業と比べると段違いです。数値だけで見るとドック17基に船台2台と、1社1ドックとは比較になりません。
先ほど紹介した2万TEUコンテナ船は6隻が建造され3隻を今治が、残り3隻を韓国の造船企業が建造しました。この船型は長さ400m、幅58.5m、深さ32.9mで、国内の造船所でも建造できる箇所が限られます。
この船型を建造するとなれば、今治造船では西条工場と丸亀工場の2工場ドック2基のみですが、JMUには呉、有明、津と3工場ドック4基が理論上は可能です。つまり、もし納期が許すのならドック6基で同時建造が可能となります。これがロット受注を可能にする最大の功績者です。
なお、下記画像は現代重工の蔚山造船所の写真です。ドックの数は11基で、VLCCや2万TEU型コンテナなど大型船を年間40隻引き渡す。
それでも中韓との戦いは厳しい
今治とJMUの提携や共同、共通化が成されたとしても、なお市況はあまりよくありません。中国では国営2社が合併し、韓国も同様に合併が進んでおります。特に日本がWTOに韓国を起訴したように、違法とも言える政策も行われているのが現状です。
また、造船所は造船事業以外に使う事は不可能に近いです。船台やドックの稼働率を上げることを優先した結果、赤字受注し船価の崩壊が始まる事も多々ある事です。
このようなグローバルな事情の他、JMUは大手企業の事業統合という創立の経緯から工場が各地に散らばってます。これは今治造船とは大きく異なることで、シナジー効果が大きく薄れることとなります。物流コストや人員の流動性も落ちますね。
造船再編へ
さて、いかがだったでしょうか?
産業の再編という歴史的な瞬間に今立ち会っていると考えると、とても素晴らしい経験だといえますね。
再編と言いましたが、そもそも規模の少ない企業が乱立した原因は、オイルショックによる造船不況と国策としての2度の設備処理が重要な影響を与えてます。
大手企業ほど自社設備の処理量が高いなど、その目的は倒産を1社でも少なくし、皆で生き抜こうというものでした。だからこそ1社1船台や1ドックといった弱小企業が乱立することとなりました。
一方の中国や韓国は2~3社に集約されており、だからこそ大規模な造船所が完成しました。韓国造船業が世界最大の建造量を誇るようになったのは2000年で、中国はその後です。1950年代から1位を誇る日本の長い歴史が、同時にこのような結果を生むこととなったのです。
これからの日本造船業を考えると、次のようなグループに分けられると思います。
①今治造船グループ(今治グループ、JMU,三菱、名村、大島)
②海外建造グループ(三井、川重、常石)
③その他(尾道、内海など独立系)
これがどのようになるのか、興味が尽きません。ただし、確実なのは、造船産業が再編される、という事です。
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