「2022年卒向け」造船業紹介!

研究以外の造船記事はこちら
造船業の現状と課題より

突然ですが、2022年卒で、造船産業を希望している方向けに企業紹介を行います。

私は大学院修士で造船産業を見てきました。

少しでも役に立てばと思います。

※なお、造船業界や業界用語については昨年版をご覧ください。

2021年卒必見!造船業界紹介
まだかなり早いですが、造船業界に就職したい方へ業界の外観などをご紹介します。 私は大学院修士で戦後日本の造船産業を研究しており、実際にインタビューなどにもうかがってます。 少なくとも知っておくべきことを中心にお伝えし、皆様の就活に役立てていただければと思います。また、下記の書籍は読んでおいて間違いありません。

造船産業の流れを知りたい方は船―引合から解船までをお勧めします。調達や設計から解船までのプロセスが書かれてます。

2021年の造船業

2021年はコロナショックから立ち直りを見せ始め、手持ち工事量も増加傾向となりました。

一方、いまだ船腹過剰の状態もあり、また鉄鋼価格の上昇など調達費も増加しており、依然として優しい環境とは言えません。

詳しくはこちらご覧ください。

2021年の造船を振り返る
1年というのは早いもので、2022年まで残り2カ月を切りましたね。 そこで、本年までの造船を振り返り、来年以降の日本造船業はどうなるのか、少し見てみたいと思います。 なお、統計データなどは2021年や2020年のものが多くなります。私では1...

世界市場

出所:造船業の現状と課題より。

世界の造船建造量を見ると、1973年のオイルショック後約30年間低水準のままでした。

しかし、中国経済の成長などにより2000年代後半に建造量は増加し、ついには1億トンを超えることとなりました。

造船研究
造船関係はこちらです。   かつて日本といえば造船という時代がありました。 世界最大の建造量を誇り、世界最大の船を常に更新する、まさに最強の存在でした。 今、その姿は見られません。 オイルショックに伴う造船不況とプラザ合意による急激な円高、...

建造国

出所:同上。

上図を見ると、建造している国は限られていることがわかると思います。

実は、世界の造船市場を見ると、日中韓3か国で8割以上を占めているのです。

特に、中韓では大規模再編を行っており、建造量世界1位と2位の企業が合併(韓国造船海洋)予定であり、中国でも国営2社の統合(CSSC)が予定されてます。

労働集約型かつ大規模設備産業である造船業は結局のところ、低い人件費と巨大な造船設備が競争優位の1つとなります。日本のように小規模造船所が乱立している状態は問題ですね。

建造船種で見る国別の特徴

数値で見ると上図の通りですが、これはあくまでも総トン数ベースとなります。

実際には国によって建造している選手は異なります。

欧州系は客船に強みがあります。これは日本企業に対し競争で勝てなくなったため、客船やガス船など高付加価値船に特化したり、設計などエンジニアリング事業にシフトしたためです。

客船は誰が作る?客船とクルーズ船を重視している欧州造船業
世界の造船市場は日中韓で8割以上を占めておりますが、欧州でも造船業は途絶えておりません。 確かに、1950年代中盤までは、造船業は西欧が主役でした。しかし、1956年に日本は造船王国の座に君臨し、1970年頃には過半数のシェアを占めるように...

その日本は中型のバルクキャリアが建造の大多数を占めており、残念なことに当該の船舶は低付加価値船に分類されます。

一方、韓国はガス船やコンテナ船などの高付加価値船を重視してます。昨今はガス船やコンテナ船などのロット発注が多く、それだけの設備を有することが参入条件になっているといえます。

韓国造船業とは何なのか?
四面を海に囲まれ、古くから造船業が発達してきた日本は、第2次大戦前には世界第3位の船腹量を保有するほど海運業が成長し、戦艦大和をはじめ世界有数の海軍強国にもなりました。 先の大戦により日本海運業が事実上壊滅したことと比べて、造船業はほとんど...

中国はコンテナ船やガス船も建造しますが、バルクもおこなうなど、バランスよく建造している印象を受けます。特に中国政府は自国海運は自国造船所で建造した船を使うべきという考え(=国貨国輪が強く、様々な船種を建造できる体制を整えているのだと考えられます。

日本の造船企業(旧大手企業)

では、日本の造船企業を見ていきましょう。

なお、ここでは総トン数5,000トン以上の外航船を建造する主要造船所を対象としております。漁船や内航船建造所などはあまり深く見ませんのでご注意ください。

まずはかつて大手企業に分類された企業からです(なお、今治造船は旧中手企業に分類されますが、NSYとして記載するため、こちらとなります)。

NSY

出所:NSYホームページより。

NSY(日本シップヤード)は2021年に設立された企業で、国内建造量1位の今治造船と2位のJMU(ジャパンマリンユナイテッド)による合弁企業です。

祝!日本シップヤード設立!!
国内建造量1位の今治造船と同2位のJMU(ジャパンマリンユナイテッド)の共同出資会社「日本シップヤード(NSY)」が1月1日付で設立され、新年5日より営業を開始しました。 先日記者会見が行われましたので、その内容を見ていきましょう。 ※新会...

建造量ではこの1社で国内シェアの約半数を占めるといえ、設立からわずか8カ月で100隻を超す受注がありました。

今治造船は主としてバルカーを建造しておりますが、一方で国内唯一の2万TEU級コンテナ船の建造を行える造船所でもあり、「船のデパートを目指す」という指針の下、多種多様な船種を建造してます。

今治造船~国内最大の船の百貨店~
今治と聞くと何を思うでしょうか?しまなみ海道や来島海峡、あるいは今治城など有名な観光地もあり、また昨今ではかなり有名になった今治タオルもありますね。 さて、世界の造船市場において、今治は日本最大の造船産業地域として知られております。特に国内建造量1位の今治造船は瀬戸内を中心に展開しており、世界市場で唯一戦えている企業でもあります。 ちなみに、企業シンボルは$(ドルマーク)と似ていることから、船主には「お金を運んできてくれる船」と評判です。 ここでは、今治造船の社史やそのグループ規模、建造船種、戦略などを紹介します。

JMUはIHI、日立造船、日本鋼管の造船事業と住友重機の艦船事業が合併してできた企業であり、そのような経緯から、建造設備は大型船を重視したものが多くあります。また艦船建造の主要企業でもあると同時に、舞鶴と呉の旧海軍工廠を引き継ぐ企業でもあります。

JMU:最長の歴史を持つ新生児?
造船企業紹介、第4弾はついに大手企業に進出しますよ! 今回は、国内建造量ランキング第2位のジャパンマリンユナイテッドです。 合併に次ぐ合併を繰り返し、誕生したのは2013年のこと。 かつて世界の造船業を牛耳った造船王国の遺産を、この記事で発掘していきます。

特に、両社の合弁により設計陣や研究開発力が急増し、次世代燃料船の開発に期待が持てます。

そのため、商船や艦船の両方に携わりたい、あるいは日本最大の造船企業で働きたい方はおすすめといえます。

※NSYでの採用はありませんので、今治かJMUに就職することとなります。

川崎重工

出所:中期経営計画「中計2019」(2019〜2021年度)船舶海洋カンパニーより。

バイクで有名な川崎重工ですが、その祖業は造船業でした。

国内のみの建造量で見るとランキング上位に入ることはありませんが、海外工場を含めると上位に上ります。

川崎重工の商船事業をご紹介!要点は海外重視の建造方法?
バイクや鉄道、ロボットなどで有名な川崎重工業もまた、かつて日本造船業を率いた1社にほかなりません。 船舶海洋事業は2019年度決算では売上高の5%を占めるまでに縮小されましたが、これは海外合弁企業との事業展開が中心になったためです(1950年代はだいたい70%くらい占めてました)。 今回はこの川重の造船事業を紹介します。

川重ですが、国内では神戸と坂出に造船所があります。一方、海外に目を向けると中国に2社あります。

神戸は基本潜水艦と思って問題ありません。ごくまれにジェットフォイルや水素運搬船などの特殊船の建造がありますが、そう多くはありません。

坂出はVLCCの連続建造の為に新設された工場です。ただし、新造船建造の主力を中国に移した今はLPG船などガス船に特化した工場となってます。

中国にある海外企業はNACKSとDACKSの2社で、どちらも現地企業との合弁です。バルカーからVLCC、2万TEUコンテナ船などを建造しており、主力工場としての地位を固くしてますね。

潜水艦や高付加価値船、あるいは海外工場と関わりたい方はおすすめです。

三菱重工、三菱造船

出所:三菱造船ホームページ

大手企業といえば外せないのが三菱重工でしょうか。商船は三菱造船が担当しており、艦艇などは重工本体に残されてます。

潜水艦工場である神戸、中小型フェリーや巡視船の下関、客船や艦艇などの長崎本工場、そして世界的に有名な100万トンドックを持つ長崎香焼工場などを有してます。このほか修繕のみで本牧工場があります。

ただし、香焼工場については新造船エリアを大島造船へ売却することが決定しており、実質大型船の建造からは撤退すると見れます。

また、建造事業から撤退する三井E&S造船の玉野艦船工場を買収しており、三菱マリタイムシステムズとして傘下に収めてます。

フェリーや官公庁船に携わりたいなら三菱造船がおすすめです。潜水艦や艦艇なら三菱重工でしょう。

なお、三菱造船は採用しておりませんので、とりあえず三菱重工にエントリーしましょう。

日本の造船企業(旧中手企業)

常石造船

出所:常石造船ホームページ

常石造船もまた国内工場のみでは建造量はそれほどですが、海外工場を含めるとトップ5に入る規模となります。

常石造船は海外3か国で船を建造する国内外建造を取ってます
日本の造船企業といえばその大多数が国内のみで建造を行っております。その一方、少数ではあるものの、国内と海外のどちらにも造船所を有する企業も存在してます。その中の1社が今回紹介する常石造船です! 国内外建造を行っている造船企業としては、中国に合弁企業を持つ川崎重工や同じく三井E&Sなどがあげられます。特に三井は2020年に常石と提携を発表したことで一時話題に上がりましたね。 今回はこの常石造船を一緒に見て、造船産業の国内外建造の歴史などを見ていきましょう。

同社は本社工場のほかフィリピンと中国に工場を有しており、国内工場はマザー工場としての役割が大きいといえます。

一方、国内では修繕事業も行っており、つい先日、「神田造船の修繕事業を継承」する発表がありました。

また、船舶建造から撤退した三井造船とも提携を結んでおり、研究開発や新造船技術の向上がうかがえます。

常石造船と三井E&Sの提携が意味すること
三菱重工が三井E&Sの艦艇事業を譲り受けるなど、日本造船業は再編途中にあります。 本日、その三井E&Sの造船部門である三井E&S造船が、常石造船と資本提携する旨が発表されました。 以下、提携についてみていきたいと思います。

建造船種はTESSシリーズと呼ばれるハンディマックスサイズバルカーやカムサマックスバルカー、またフィーダーコンテナ船も手掛けております。基本は中手企業らしく、バルカー主体の建造ですね。

国内外の工場で広くかかわりたいのであればおすすめです。

大島造船

出所:大島造船ホームページ

大島造船はドック1基にもかかわらず建造量ランキング上位に入るなど、生産性特化型の企業です。

生産性の権化:大島造船所
今回紹介する大島造船所はドック1基にも関わらず単一のドックとしては国内最大の建造隻数を誇る、生産性特化の珍しい企業です。

他企業のように様々な船種を建造するのではなく、建造はバルクキャリア1本に絞り、年間で40隻もの引き渡しを行っていました。フィーダーコンテナ船などの開発を行っているという発表もあり、戦略を転換する可能性もあります。ただ、4隻を同時にドックで建造するのは大島くらいでしょう。

また、既述のように三菱重工香焼工場の新造船エリアを取得する予定です。パナマ運河の拡張によりポストパナマックスバルカーも出現するなど、バルカーも大型化する可能性が出てきてます。

※積み込み港などにより、水深が足りないなどの可能性があるため、必ず大型化するわけではない。

ポスパナまでを大島で建造し、ケープやVLOCクラスを香焼で建造する可能性もありますが、こればかりはまだ不明ですね。

多種多様な船種ではなく、極められた1つに関わりたいのであれば大島でしょう。特に、香焼の取得により益々の成長の可能性もありますので、波に乗れるかもしれませんね。

名村造船

出所:名村造船ホームページ

名村造船は今となっては珍しい、上場している造船企業です。

名村造船所:意外と大きな造船グループ
国内建造量1位の今治造船や、2位のジャパンマリンユナイテッドと比べると、それ以外の造船企業はあまり名が知られてません。 今回紹介する名村造船は、国内のみの建造量ではトップ5に位置する老舗造船会社です

国内工場は伊万里のドック1基のみですが、佐世保重工業や函館どつくなどを傘下に収めており、規模としては比較的大きいグループです。

ただし、佐世保での新造は無期限停止となったため、現在の主力工場は伊万里のみとなります。函館はスモールハンディくらいまでしか建造できない規模ですので……。

建造船種はパナマックスクラスのバルカーからVLCCやVLOCなど、大型船重視の体制です。ただし、基本はバルカーだといえます。

名村造船ですが、佐世保や函館のように国防上重要な地点の造船所を引き受けており、特に函館より後方となると舞鶴や横須賀あたりまで造船所がないといえます。

大型船や安全保障の面から造船に関わりたい方はおすすめです。

新来島どっく

出所:新来島どっくホームページ

塀のない刑務所で有名な造船所が、この新来島どっくです。

[再建王]坪内氏の遺産?新来島どっくグループ
企業紹介第3弾は、新来島どっくグループです。 新来島どっくといえば再建王「坪内 寿夫」氏と深い関係がある造船会社です。 その傘下には、かつて佐世保海軍工廠を引き継いだ佐世保重工も属していたほどで、もし坪内氏が経営参画しなければ佐世保重工は倒産していたと言われてます。

建造量ランキング上位には入りませんが、とても大きなグループを作ってます。

というのも、同社は中型特殊船を重視した戦略を取っており、自動車運搬船やケミカルタンカーなどの市場ではかなりのシェアを持っています。

ここ最近は自衛隊向け輸送船の建造でも話題に上がりましたね。

中型の特殊船などに関わりたいなら同社がおすすめでしょう。

そのほか

上記以外にも特徴的な造船企業がいくつかあります。

住友重機

住友重機は建造船をアフラマックスタンカーに絞り、事業を行っています。

かつては自衛隊抜け艦艇も建造しておりましたが、艦艇事業については既述のようにJMUに譲渡しております。

内海造船

内海造船はRORO船や内航フェリーなどで強みを持っております。

外航船と違い、自分たちが作った船を実際に利用するお客様が見れるのが特徴だと、同社社員は話しておりましたね。

尾道造船

尾道造船もまた、新来島のように中型特殊船を重視した企業です。

プロダクトタンカーやケミカルタンカーを重点的に建造するとともに、傘下に佐伯重工とコロンボに子会社を有してます。

おわりに 

日本は四面を海に囲まれており、船なしには生きていけない国です。

古くからの歴史ある企業が多数存在し、また舶用機器メーカーも充実しているのは非常に大きな意味を持つことと思います。

このブログが少しでもお役に立つと幸いです。

 

 

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