客船重視の欧州造船業

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世界の造船市場は日中韓で8割以上を占めておりますが、欧州でも造船業は途絶えておりません。

確かに、1950年代中盤までは、造船業は西欧が主役でした。しかし、1956年に日本は造船王国の座に君臨し、1970年頃には過半数のシェアを占めるようになる一方、欧州造船業は衰退の一途をたどる事となりました。

さらに、2000年代以後は韓国、中国造船業が成長を遂げるなど、造船産業は極東に集中する結果となります。

そのような中、欧州造船業は日本との競争に歯が立たず、客船やガス船など高付加価値船への集中や設計などのエンジニアリング事業への移行、あるいは別産業への移動などが行われました。

この記事では、今もなお大型船を建造している欧州の企業を軽くご紹介します。

※本記事は欧州主要造船関連企業ガイド2019のデータを多く利用しております。一部不足分はその他の資料などから利用してます。

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MEYER WERFT(ドイツ)

大型客船のメッカともいえるのが、このマイヤー社です。

1795年に設立と200年以上もの歴史を持っており、中でも1987年に建設された屋内ドックは拡張を続け、世界最大級のものとなってます。

グループ企業

マイヤーグループはマイヤーのほか、傘下に2つの造船企業を有してます。ドイツ国内にあるNEPTUN WERFT社と、フィンランドにあるMEYER TURKU社です。

ネプチューン社は1997年にマイヤー社傘下となります。第2次大戦時終戦後から東ドイツにある造船所はこの1社のみであり(当時NEPTUN、SchiffswerftundMaschinenfabrik社)、統一後のの1997年にマイヤー社傘下となりました。

トゥルク社は2008年に韓国のSTX造船に買収され、STXフィンランドとして活動を行ってました。その後STXの破産を受け、マイヤー社により買収されました。

建造設備と船種

※建造船種の客船には客船、クルーズ船が含まれます。

設備としては、屋内型ドック3基と屋外ドック1基の計4基です。日本では大型船の建造に屋内型のものはありませんので、珍しいですね。

ちなみに、屋内ドックの中は下図のようなものとなってます。

マイヤー社ウェブカメラ

出所:マイヤー社HPよりWebCam(View to hall 6 with the new cruise liner AIDAcosma under construction.)

屋外型は天候に左右され、特に風が強い日などはクレーンが揺れて作業しにくいなどが以前私が行ったインタビューで得られました。

マイヤー社のような屋内型は天候や環境の影響を受けにくく、作業環境は抜群に良いと思います。特に、客船は階層が多く、一般商船とは大きく異なります。三菱重工が大型客船で大赤字を出したことは記憶に新しいですね。

建造船種は3社とも客船ですが、マイヤー社とトゥルク社が大型客船、ネプチューン社が河川クルーズ船というような分類がなされてます。また、ネプチューン社はこのほか自社建造の客船用エンジンルームユニットを建設するなどしてます。

世界的にみても最大の客船建造社として、マイヤー社は今もなお造船市場にその名を残してます。

MV WERFTEN(ドイツ)

ドイツにはもう1つ客船の建造を主とする企業があります。それがMV WERFTEN社です。

工場はウィスマール、ロストック、シュトラールズントの3拠点があり、マイヤー社と同じく屋内ドックを有してます。

なお、NV社は2016年より香港のクルーズ船事業社ゲンティン香港の子会社となり、同社向けの客船建造を行ってます(ゲンティン社はマレーシアの企業で、クルーズ船のほかにリゾートの運営などを行ってます)。

※コロナによるクルーズ市場の壊滅で、同社は事業停止を余儀なくされ、経営破綻も視野に入っておりました。現状、救済措置をゲンティン香港社と協議中とのことです(ゲンティン香港、ドイツ政府にMVヴェルフテン造船所救済の補助金6億米ドルを要請)。

建造設備と船種

設備としては屋内ドック2基と屋外ドック1基の計3基で、シュトラールズントの工場には世界最大級のシップリフトが設置されてます。

ウィスマールとロストックで大型客船を、シュトラールズントでクルーズ船が建造されます。なお、コロナによりロストックはブロック建造となっているという記事がありましたので、そのように記載しております。

ゲンティン社の子会社であるため、建造船種も同型船となってます。

グローバルクラスは長さ342mx幅46.4mで、20階層の大型客船です。エンデバークラスは長さ164mx幅23mで、熱帯地方や氷点下の海域など、かなりユニークな海域へ向かうクルーズ船です。

一方、ラインクラスはライン川での河川クルーズに利用されるサイズで、全長135mx幅11mです。

どれも日本では建造されないような船ですね。一度ライン川をクルーズしてみたいものです。

FINCANTIERI(イタリア)

イタリア国営のフィンカンティエリグループについては、日本ではマイナーなイメージがありますが、欧州では間違いなく最大の企業グループだと思います。

イタリアに自社工場を持ち、アメリカやノルウェー、ブラジル、ベトナムに子会社を有すると同時に、UAEや中国に合弁事業を有してます。

フィンカンティエリ社はマイヤーやMVと異なり、客船からオフショア船、官公庁船と幅広い事業展開を行ってます。

グループ企業、設備

フィンカンティエリグループにはフィンカンティエリのほかVARD、フィンカンティエリマリン、Etihad Ship Building 、Shanghai Waigaoqiao Shipbuildingがあります。

フィンカンティエリ

フィンカンティエリはイタリア国内に8か所の造船所を持ち、ドック10基、浮きドック2基、船台2基、陸上建造2施設という規模となってます。

このうち、一般商船の新造に使われるのは8基程度で、主として客船とオフショア船の建造を行ってます。また、トリエステには修繕ドック4基を有しており、新造から修繕まで、事業分野は広くあります。

VARD

 

オフショア船市場においてリーダー的存在であったノルウェーのVARD社ですが、こちらもフィンカンティエリ社の傘下企業となってます。

閉鎖した造船所も記載しておりますが、7基が現在稼働中となってます。また、上から5か所がノルウェー、2基がブラジル、2基がルーマニア、最後がベトナムにあります。

フィンカンティエリマリンシステム

フィンカンティエリマリンは、フィンカンティエリ社がアメリカのマリネットマリン社を2009年に買収したことで、傘下に収まりました。

主に海軍など国務機関を顧客としており、フリーダム級沿海域戦闘艦やアルミ船などの特殊船を建造してます。

その他

そのほか、UAEでの合弁事業としてEtihad Ship Building社(浮きドック2基、新造は陸上建造)と、中国国営CSSC社傘下の上海外高橋社と合弁事業を行ってます。

また、韓国STXグループの破産により手放されたアトランティーク造船の買収も検討されてましたが、こちらは中止となりました(フィンカンとアトランティック 欧州造船大手の経営統合ならず)。

このほか欧州造船所

ここまで挙げたのは欧州の代表的な造船所でした。実際にはこのほかにも造船企業は存在します。

例えば、ドイツのFlensburger Schiffbau-Gesellschaft社はRoRo船やRoRoフェリーなどで有名であり、フランスのChantiers de l”Atlantique(アトランティーク造船所)は全長900mと欧州最大の長さを誇るドックを有してます。

※フランスにはNAVAL GROUPという国営企業があります。同社は艦艇建造が中心であり、民間船市場には参入していないと思われます。

また、オランダにはDamen Shipyards Groupがあり、同社は造船所を35か所も有してます(このうち、新造船造船所は23か所です※建造船のほとんどは作業船やタグボート)。グループ最大の造船所は、旧大宇造船グループのマンガリア造船所で、全長360mです。

ただし、欧州の造船所は客船セグメントか、オフショア船などの作業用特殊船、あるいは艦艇建造特化の企業となっており、日中韓のようなバルカーやコンテナ船などはメジャーではありません。

極東がバルカーやコンテナ、ガスなど商船を建造し、欧州はオフショア作業船や客船、クルーズ船を建造しているのが、現状の世界市場におけるセグメント分けであるといえます。

※もっとも、内航用のバルカーなどごく一部建造されているものもあります。

終わりに

豪華客船、一度でいいので乗船したいものです。

客船建造の市場は、実質欧州が占有しております。日本では三菱が大型客船の建造に失敗し大赤字を出し、引き渡し後に同市場から撤退を決めました。今は中型以下の客船やクルーズ船の建造に抑えてます(三菱重工、大型客船の受注停止−巨額損失で中小客船に特化)。

客船では韓国も建造を志しており、欧州以外の客船建造では三菱の次にサムソン重工が参入した歴史があります(サムスン重工/米ユートピアから客船1000億円で受注。13年引き渡し)。

また、フィンカンティエリが支援する中国の上海外高橋造船で、2019年に中国初となる大型クルーズ船の建造が開始されました。こちらは2023年に竣工予定となってます(上海外高橋造船 中国初の大型クルーズ船建造開始 2023年にも竣工)。

一部極東で客船が建造されるものの、やはり主流は欧州といえますね。だからこそ、なおさら三菱の大赤字はつらいものでした。

大型客船が作れる日本企業、今後現れるのでしょうかね?

それでは!

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