建造船種、規模で分ける日本の造船

研究以外の造船記事はこちら

造船所といっても、そこで建造される船種はさまざま。そして、同じ船種であってもその大きさには複数の分類があります。

パナマックスサイズやケープサイズなどという言葉を耳にしたことが無いでしょうか?ここでは、それら分類について解説し、それら船舶の分類から造船所を分けていきたいと思います!

※1章にて船種紹介、2章にて船種別の分類方法、3章で船種別での建造企業の紹介です。

いろいろな船種

世界に船はどれくらいある?

規模で分ける前に、船種による分類を解説しましょう。

実は、2018年ベースで見ると、世界で活動している100総トン以上の船舶はなんと118,525隻(1,333,643,000総トン)も存在しているのです。

そして、その約9割以上を占めるのが、いわゆる貨物船と呼ばれる船に他なりません。

※出所:日本船主協会海運統計要覧2020より世界における商船の船種別構成を元に著者作成。

※液体貨物船にはオイルタンカー、液化ガス船、化学薬品船などが含まれる。その他貨物船には貨客船やRORO船などが含まれる。その他商船には漁船や作業船などが含まれる。

バルカー(ばら積み船)とは

世界で活動している船舶の3割以上を占めるバルカーは、最も馴染みのある船かもしれません。

今治造船ばら積み運搬船一覧より

ばら積み船と呼ばれるだけあり、積載物はバラで積まれるものがほとんどです。特に3大バルク貨物と呼ばれる鉄鉱石、穀物、石炭の輸送に用いられてます。

下記画像のように、梱包も無く、そのまま船倉に入れられるのが特徴ですね。

商船三井ドライバルク船より。

荷役設備が整っている港湾を利用することを前提としたバルカーはそのほとんどにクレーンが付いておりません。一方、港湾が整備されていない場合などは甲板上にクレーンが付いているバルカーが用いられます。

液体貨物船

バルカーと同じく、船舶の3割を占める液体貨物船は、日本の存続に欠かせない重要な船種と言えます。

今治造船タンカー一覧より。

液体貨物の代表的な積載品は何と言っても原油に他なりません。オイルショックやSDGs、LNG(天然ガス)の利用などで昔ほどの需要は無くなりましたが、それでもオイルは日本に不可欠な品です。

日章丸事件もその目的は原油の確保でしたね。

タンカーは原油タンカーのみではありません。

ガソリンなどの石油精製品を輸送するプロダクトタンカーや、液体化学製品を輸送するケミカルタンカーなどに分類されます。

またここ近年の環境志向から原油ではなく天然ガスへシフトしておりますが、こちらもタンカーが運んでいます。いわゆるガス船ですね。

※気体である天然ガスをマイナス162度まで冷却すると液体になります。

川崎重工業LNG(液化天然ガス)運搬船より。

三井E&S造船LNG運搬船より。

丸いタンクを備えたものがモス型LNG船、平べったいものがメンブレン型LNG船です。LNG船はこの2種がほとんどです。

ちなみに、日本が得意とするのはモス型、韓国が得意とするのがメンブレン型です。

タンカーの種類には次のようなものがあります。

※出所:出光タンカーの歴史と原油タンカーの分類より。

コンテナ船

コンテナ船自体は上記2種と比べて想像しやすい船だと思います。港湾に置かれているあのコンテナを運ぶ船ですからね。

今治造船コンテナ運搬船一覧より。

海上輸送されるコンテナは世界標準規格があり、TEU(Twenty-foot Equivalent Unit:20フィートコンテナ)かFEU(40フィートコンテナ)に分けられます。

海上におけるコンテナ輸送は戦後に生まれた概念であり、草創期には各社コンテナのサイズが異なるなど混乱がありました。そのあたりについてはコンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版がおすすめです。読み物としても面白いので、ぜひ手に取ってみてください。

その他貨物船

バルカー、タンカー、コンテナの3種でだいたい8割を占めておりますが、それ以外にも船種は存在します。

例えば自動車輸送に使われるPCC(自動車運搬船)や車ごと乗船して移動するRO-RO船などでしょうか。もちろん、”バラではない貨物”を運ぶ船だって存在します。

新来島どっく建造実績自動車運搬船より。

船種別の分類

では、いよいよ船種別の分類方法について見ていきましょう。

ただし、重要なものとして、分類には明確な定義が無いと言うことを忘れないでください。だいたいこれくらい積載できれば、あるいはこれくらいの長さ・幅・深さで○○級という感じなのです。

バルカーの分類

バルカーはDWT(積載可能量。船にどれだけ荷物を積めるか。)と通行できる最大船型による分類が一般的です。

大まかな分類としてハンディサイズ、パナマックスサイズ、ケープサイズ、VLOC(Very Large Ore Carrier)に分けられます。

※著者作成。

ハンディサイズ

ハンディサイズは世界のほぼ全ての港湾に入ることが可能なバルカーであり、だいたい1万DWTから6万DWT程度の船を言います。

ハンディには小分類としてスモールハンディ、ハンディ、ハンディマックスに分けられます(ハンディマックスの中にはスープラマックスもあります)。

ハンディクラスはだいたいが甲板にクレーンが搭載されており、荷役設備が整っていない港湾でも問題ありません。

パナマックスサイズ

パナマックスサイズとはパナマ運河を通過できる最大船型の事で、長さ約274m、幅約32m以内でした。なので、これ以上の船はパナマ運河を通航できず、迂回することとなります。

その為、パナマックスサイズは72,000DWT~82,000DWT程度となっていたのです。

ただし、パナマ運河は2016年に拡張工事を終え、長さ約366m、幅約49mと大幅に拡張されました(世界のものさし「パナマックス」とは? パナマ運河103年、拡幅から1年)。この拡張後のパナマックスサイズをポストパナマックスサイズと呼称します。

ケープサイズ

パナマ運河を通過できずに迂回する船はケープサイズと呼ばれます。

※喜望峰(Cape of Good Hope)回りでインド洋/大西洋間を、ホーン岬(Cape Horn)回りで大西洋/大洋間を行き来することから名づけられました(商船三井 いろいろな船 ドライバルク輸送より)。

ケープサイズはだいたい15万DWT以上が該当しますが、かつてはミニケープと呼ばれるものがありました。ミニケープはパナマックス以上ですが、DWTは12万前後と少し小さめの船です。

このミニケープがパナマ拡張によりポストパナマックスに分類可能となりました。私も、ミニケープはポスパナだと考えております。

VLOC

ケープサイズに分類されますが、バルカーと異なり鉱石のみを運搬する超大型バルカーをVLOCと呼びます。20万から30万DWTもの鉱石を運搬できる船がこの中に分類されます。

そして、VLOC以上のヴァーレマックスサイズという化け物が誕生しました。驚きの40万DWTであり、全長360mもの巨体です(日本一高いビル”あべのハルカス”が300m)。

その大きさから入港できる港湾自体が限られ、恐らくこれ以上の船は生まれないことと思います。

タンカーの分類

パナマックス~アフラマックスタンカー

パナマックスサイズはもう説明する必要がありませんね(笑)

上記と同じく、パナマ運河を通航することを前提に設計された船です。

スエズマックスも同様にスエズ運河の通航を目的に設計されたタンカーです。

アフラマックスタンカー

アフラは上記とは異なり、商業的な目的で生まれた分類方法です。

平均運賃評価と呼ばれる石油タンカー料金システム(AFRA:Average Freight Rate Assessment )が由来で、だいたい8万から12万DWTの船が対象に含まれます。

Average Freight Rate Assessment [average freight rate assessment]
JOGMEC石油・天然ガス資源情報ウェブサイト

VLCC、ULCC

20万DWT以上もの原油を積載できる超大型原油タンカーです。

原油タンカーの歴史は日本と大きく関わっております。世界初のVLCCは日本製で、造船大国日本を作り上げたのも、このVLCCによるものが大きいです。

MR、LR1・2型

こちらもAFRAと同様、料金システムから作られたような分類方法となってます。

コンテナ船の分類

※数値は積載TEU量。

フィーダーコンテナ

フィーダーコンテナは近~中距離でのコンテナ輸送を目的とする船です。

大陸間での輸送ではなく、国内輸送やアジア~アジアなど主要な港から地方の港、または地方から地方へのコンテナ輸送に用いられます。

大陸間

近海や近中距離輸送ではなく、北米からアジアなど長距離での輸送に用いられます。

また主要港から主要港への移動が前提ですので、港湾設備の整備が必要です。

TEU数による分類というよりも、船主の要求や技術開発、港湾整備により大型化してきたと言う点で他船種と歴史が異なりますね。

船種別で見る建造企業

※著者作成。国内外建造量を含む国内企業トップ10社。

※建造企業グループには子会社や合弁企業などが含まれる。NSYは今治造船とJMUを足している。

バルカー

日本企業が世界的に競争力を持っているのがバルカーに他なりません。バルカーは低付加価値船に分類され、激しい競争下にあります。日本のほかには中国が主に建造しております。

オイルショック前までは三菱やIHIなど大手7社がVLCC等の超大型船を建造し、今治や常石など中手企業がバルカーを建造するという棲み分けがされておりましたが、現在はそうではありません。

建造設備上、中手企業はハンディからパナマックスまでを建造する傾向にあり、大型ドックを有する一部企業がケープやVLOCなどを建造してます。

タンカー、LNG船

タンカーの建造にはかなり高度な技術が必要であり、VLCCはもちろんの事、LNGガス船などは高付加価値船に分類されます。ケミカルタンカーなども然りです。

韓国がこのような高付加価値船に集中しており、日本ではたまにLNG船やVLCCが建造されるにとどまります。

このあたりについては私の別記事にも書いておりますが、ロット発注されることが多く、規模が小さい日本には受注競争に参入することさえできない問題もありました。

「日本造船所の規模面での弱さ」とは
12月14日付で、朝日新聞より「造船業、幻と消えた5千億円 沈むか復権かの瀬戸際に」と題する記事が発表されました。今回はその中で書かれていた「日本造船所の規模面での弱さ」についての解説を少ししたいと思います。なお、はじめに商船の建造プロセス...

原油タンカーで見ると、アフラマックスまで建造する企業が中手にもありますが、VLCCクラスとなれば今治造船や名村造船くらいしかありません。一方、大手は一部を除きその名を残しております。

プロダクト・ケミカルタンカーでは、MR型などでは中型高付加価値船を重視する新来島どっくや、同市場に特化する尾道造船などが有名です。

LNG運搬船となれば建造できる企業が限られ、大型船であれば日本ではMILNG(三菱と今治)と川重くらいしかありません。

コンテナ船

コンテナ船もまた高付加価値船に分類されます。世界的にコンテナ需要が増加しており、2万TEUのような化け物コンテナ船も今後増加する傾向にあります。

フィーダー船であれば建造している日本企業がありますが、大陸間の長距離船となると国内ではNSYと川重の2社程度になります。

世界最大級となる2万TEUコンテナ船を今治造船が建造したのはつい最近の事ですね。一方、川重は中国合弁企業で同程度のコンテナ船を建造しております。

終わりに

如何だったでしょうか?

分類にははっきりとした定義が無く、パナマ運河の拡張など大幅に変更されることもあります。

さて、作成した表で見ると、日本が如何にバルカー重視かということが分かりましたね。タンカーやLNG船、コンテナ船などはどうしても韓国や中国が有名になってます。

一方、今治造船とJMUの提携により誕生したNSYにより、今後高付加価値船のロット市場への参加が期待できます。また新来島どっくにはサノヤス造船が参加し、三井E&S造船はエンジニアリング事業にシフトする等、国内でも大きな変化が行われてます。

次回は先の表をより詳細にしたものを使い、戦略などを見ていきたいですね。

それでは。

 

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました