8月は通称1Qと呼ばれるものが発表されます。
正確には第1四半期決算と呼ばれ、4~6月の売り上げなどの決算報告が発表されるとともに、配当金の変更や中期計画の訂正なども行われます。
さて、三井E&Sは先日決算報告がなされました。
今回は、それらから今後の造船戦略を見ていきたいと思います。
※船舶部門は目次3から記載されてます!
~お品書き~
決算報告
海洋部門の頑張り
三井E&Sは上記セグメント別決算を見てわかる通り、多数の部門を有しております。
中でも、前年度より売上高が唯一のプラスとなっている海洋開発部門は極めて高度な技術力が求められるもので、日本では珍しい事業となっております。
一方、経常利益では突出してマイナスとなってます。これは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う影響を織り込んだことなどによるそうです(決算短信より)
ちなみに、FPSOは1000億円程度といわれており(大型LNG船が1せきあたり200億円程度)、それ1隻で莫大な利益が出るものです。
三井E&Sはこの船殻とエンジニアリング・設計を1社で賄える点で、国内企業とは一線を画しているといえますね。
※上記2枚は、海洋開発市場の現状国土交通省 海事局平成29年12月より。
船舶事業
コロナが猛威を振るう中、新造船受注を得るなど、前年同期時より87%増しの受注高を得られてます。
受注残に関しても13隻手持ちがありますが、うち8隻を官公庁船が占めることとなってます。海自のFFMや巡視船などだと思われます。
官公庁船は玉野で建造となるでしょうが、商船は千葉の分が含まれているのではないかと思いますが、詳細は不明です。
中期経営計画
https://www.mes.co.jp/press/2020/uploads/20200805f.pdf
さて、同時期に中期経営計画も発表されました。
造船部門では、大規模な改革がなされる予定と読む事が出来ましたね。
ストック型ビジネスモデルへの転換
三井E&Sグループとして莫大な赤字を抱えており、事業売却など身売りをしてきました。
その一方で、これまでの売り切り型のビジネスモデルからストック型へのシフトを今回発表することとなりました。
簡単に言うと、製造機械に電子機器を組み込み、アフターサービスも手掛けるということです。
これにより、揺り籠から墓場まで三井は関わることとなります。
現在の船舶部門
船舶部門では、驚きの内容が盛りこまれてました。
一言で言うと、事業のファブレス化です。
※ファブレス化とは、自社で工場を持たないことを意味します。
つまり、三井E&S造船という造船事業部をこれからも有する一方で、自社工場は持たないということです。
国内工場
三井E&S造船は、国内に玉野艦船工場と千葉工場を有しております。
かつては駆逐艦建造で有名な藤永田造船も傘下に加わっており、中型船は藤永田、大型船は玉野、超大型船は千葉という建造分けがなされていたそうです(三井造船100年史)。
なお、藤永田造船はすでに幕を閉じてます。
玉野艦船工場
玉野工場は祖業の地とも言える工場であり、商船のみならず護衛艦や巡視船と言った官公庁船、FPSOなど海洋構造物の建造も行ってます。
玉野艦船工場と呼ばれてますが、艦船のみを建造しているわけではありません。
現在、建造船台を2基と海洋構造物用のドック、修繕ドックを持っております。
千葉工場
この工場はVLCC連続建造なドックを有する大規模な工場で、現在は建造ドック1基と修繕ドック2基を持つ造船所として活動してます。
VLCC建造可能ということもあり、ドックの長さは400mと長大なものとなってます。
建造ドックのほか修繕ドック2基を持ってますが、こちらも非常に巨大なものとなってます。
ただ、残念なことに、千葉工場からは2021年3月末で完全撤退する予定となってます。
由良ドック
由良工場は当初から修繕を目的に建設された工場で、現在は川崎重工と共同で運営しております。そのため正式名称はMES-KHI由良ドック株式会社となってます。
全長405m、幅65mと巨大なドックで、2隻同時に入渠することもできます(HPより)。
海外工場
三井E&Sは海外工場として、三井E&S造船と三井物産、揚子江揚子江船業の3社が合弁で立ち上げた企業があります。
江蘇揚子三井造船という名称で、YAMICと略されます。
yamicについては、以前このような記事を投稿いたしましたので、良ければご覧ください。
これからの造船部門
端的に言うと、自社での建造から身を引くと言えます。
艦艇事業を三菱に譲渡し、商船事業を常石造船、yamicにて行うと言うものです。
三井E&Sはあくまでも船舶の設計などに注力するのです。
ファブレス化
実は、商船建造で一番重要なのは設計段階にあると言えます。
かつて、欧州造船業が日本にやられたとき、一部の企業はこのような設計専門にシフトしていました。皮肉にも、日本がそういう選択を取らざるを得なくなったと言えるでしょう。
ただし、三井自体での建造を辞めるのみであり、どちらかというと生産委託の面が強く残ってます。
常石造船との関係
詳しくは別で投稿した記事に書いてます。良ければご覧ください。
常石造船の名は、三井造船ほど知られてはいません。国内建造量ランキングで見ると上位にいるとはお世辞にも言えませんしね。
一方、海外工場での建造分を含めると、常石造船は建造量で3位に位置するほど急上昇します。
出所:「三井E&Sとツネイシ、造船事業で資本提携へ 国内3位」より。
三井が求める姿
まとめると、
①三井E&Sは艦船事業を三菱に譲渡し、商船事業は設計段階程度までしか関与しない。
②千葉工場から撤退し、玉野工場での商船建造からも撤退する。
③商船の建造は常石造船やyamicに生産委託する形を取る。と言えます。
ただし、玉野からの商船建造撤退についてはまだ結論が出ておりません。
個人的には撤退するものとみて間違いありません。一方、三菱は玉野工場でも官公庁船の建造を続ける方針ですので、解雇などはそれほど行われないとみられます。
おわりに
建造を海外に切り替えている企業としては、川重があげられますね。
坂出工場のドックを1基にし、かわりに中国の合弁企業であるDACKSとNACKSの設備を増強してます。
さて、今回の三井の選択は非常に驚かされたものでした。
今治造船でさえ頭を抱えるような市況であり、他事業で巨額の損失を抱える三井には売れるものは売り払い、企業を再構築しなければ倒産の道しか残されておりません。
今回のファブレス化、生産委託化はある意味で日本の重工業系造船事業の未来を示しているのかもしれませんね。
8月7日追記
三井E&Sより次のような発表がなされましたのでお知らせします。
玉野艦船工場では官公庁船を中心に、建造事業が継続されるそうです。
ただ、艦艇事業は三菱に譲渡する予定ですので、艦船や輸送艦などは三菱が三井E&Sに発注するという形か何かだと思われます。
一方、巡視船の建造は今後も三井E&Sが受注・建造する方針だと思われます。
商船に関しては記載されておりませんが、恐らく建造はないでしょう。56型バルカーの設計図を常石やyamicに提供し、そちらの企業で建造してもらうパターンだと思います。
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