前回、米海軍の原子力潜水艦が修繕設備の不足のため作戦展開できず、戦力が自壊していく状況にあることを紹介しました(自壊する米海軍原潜戦力:ドック不足が招く危機)。
では、日本はどうなのでしょうか。
幸いにも?ドック自体は足りていると言えます。しかし、調べていくと、正しくは余裕がない状態とみられます。
なぜ私がそう思ったのか。書いていきたいと思います。
~お品書き~
海上自衛隊の潜水艦
2026年3月現在、海自の潜水艦はおやしお型、そうりゅう型、たいげい型の3艦型を有してます。
総数は25隻で、うち2隻は練習潜水艦、1隻は試験潜水艦となっており、作戦展開可能な隻数は22隻です。
建造するのは川崎重工(以下、川重)と三菱重工(以下、三菱)の2社のみで、どちらも神戸の造船所で建造しています。なお、建造能力の維持などのため両社へ対等に発注され、1年ごとにどちらかの造船所で進水していきます。
潜水艦の艦型
※出所:各種資料より著者作成(連続潜航日数は非公表のため想定値)
おやしお型
※画像出所:海上自衛隊 公式HP
1番艦が1996年進水のように、海自が現在保有する潜水艦では一番古参の艦型となります。
11隻が建造され、現在は練習潜水艦として2隻、現役艦として6隻が稼働しています(除籍3隻)。
なお、本艦型は18隻体制(現役16隻+練習2隻)の時代に建造されたことから、耐用年数も同様に18年を想定して設計、建造されていました。もし同じ体制であれば、今頃は全艦除籍されていた可能性がありましたね。
そうりゅう型
※画像出所:海上自衛隊 公式HP
数の上で主力となるのがそうりゅう型で、1番艦は2007年に進水しました。12隻が建造され、全艦とも現役稼働中です。
自衛隊としては初となるAIP(非大気依存推進)機能を当初より搭載した潜水艦で、これまで連続して数日しか潜り続けられなかったものが、2週間以上も水中で活動を続けることが可能となりました。
※ディーゼルエンジンを使うためには大気が必要で、浮上したりシュノーケルなどを海上に出す必要性があった。AIPはそれらが不要であるが、速度としては4~5ノット程度を出せる出力のため、原潜のように展開中は一切浮上しなくてもよいわけではない。
11、12番艦はAIPを廃止し、新たにリチウムイオン電池を採用し、次世代艦型への技術実証を行いました。
たいげい型
※画像出所:海上自衛隊 公式HP
おやしお型からそうりゅう型への最大の変更点がAIPシステムであったように、本艦型はリチウムイオン電池の利用を前提として設計されたことが特徴と言えます。
特に、リチウムイオン電池はこれまでの鉛電池より格段に充電能力があり、そうりゅう型が2週間程度だった潜水可能期間も約1か月程度に上昇したと言われています。
現在も建造が続けられており、5隻が引き渡し済みです。なお4隻が稼働中で、1隻が試験潜水艦として利用されています。そのほか1隻が艤装中、2隻が建造中です。
ディーゼル動力と原子力
実は、世界初のリチウムイオン電池を搭載した潜水艦はそうりゅう型11番艦だと言われております。日本の技術が集結した結果、後継であるたいげい型は”通常動力型潜水艦”としては世界トップレベルの性能を誇ると言えますね。
一方、世界に目を向けると原子力を用いた潜水艦、いわゆる原潜も数多く存在します。アメリカ海軍は全世界へ展開する都合すべての潜水艦を原潜にしており、中国やロシアは原潜も通常もどちらも稼働させています。
連続潜水日数については、当然浮上する必要がない原潜に優位があります。原潜としては数か月の作戦展開で一度も浮上する必要はありませんが、乗員や食料などの都合浮上せざるを得ません。
日本国として、これまでの近海で待ち伏せる方針を変えないのであれば通常型で事足りますが、いずも型の軽空母化や近隣諸国の軍拡で活動が近海に収まらない場合、原潜を持たざるを得ない状況もあるかもしれませんね。
潜水艦の目的と運用
では、日本にとって潜水艦は何のために存在するのか。そして、潜水艦はどのように運航されるのか。
潜水艦の目的と隻数の設定
海上自衛隊の潜水艦の運用方法について、冷戦下では主として3海峡(宗谷、津軽、津島)を常時警戒、あるいは防備することが最大の目的でした。
この目的達成のためには、3~4隻からなる潜水隊を3海峡へ2隊ずつ配置することが必要とされ、潜水艦16隻体制が設定されました(冷戦後の海上自衛隊の体制と活動の変遷)。
冷戦終結後もこの51大綱(1977年度~1995年度)の防衛計画を引き継ぎ、3海峡を重視した計画が続けられていました。しかし、22大綱(2011年度~2013年度)にて大きく変わることとなります。
※画像出所:防衛省2012防衛白書第Ⅱ部第2章第2節
中国の軍拡などで、3海峡のみならず沖縄や台湾など南西方面への警戒を増やす必要が出てきたのです。このため、潜水艦4個隊16隻から6個隊22隻へ隻数増強を決定し、2022年ついに22隻運用体制が完成いたしました。
なお、現行の防衛計画では引き続き潜水艦は22隻体制が維持されることとなっております。
運用
※出所:各種資料より著者作成
22隻体制が達成されましたが、全隻数が常時展開できるわけではありません。おおよそ整備期間、訓練期間、即応期間の3つに分類できます。
なお、16隻体制の時代では、整備2隻、訓練2隻、即応2隻で、1海峡に2個潜水隊の配置が考えられていたとの記載があります。
1個潜水隊は3~4隻で構成されており、常時1~2隻が活動していたということですね。
あくまでも予想ですが、当時は下図のような状態だったのではと思われます。
※出所:各資料より著者作成
整備期間
海上自衛隊は潜水艦は3年ごとに1回の定期検査を受けることを定めており、約10ヵ月程度のドック入渠を伴う整備期間となります(特別防衛監察の調査状況(中間報告)について)。
また、定期検査以外の年度には年次検査があり、こちらは約2~3か月を要するとあります。
仮に定期検査が12か月かかるとすると、次の検査までの48か月で1サイクルと考えることができます。12か月と3×3か月で合わせて21か月。すなわち、進水から退役までの約半分は整備期間となります。
なお、どちらもドックの入渠期間がどれくらいかは不明です。
訓練、即応期間
年次検査が毎年3か月必要なことから、1年の間に稼働できる期間は9か月となります。仮に、1個潜水隊4隻とすると、常時1隻が年次点検を受け、残り3隻が稼働可能となります。
なお、この3隻のすべてが高度な即応体制を敷いているわけではなく、訓練中や休養中なども含まれています。仮に訓練1か月、即応3か月、休養1か月、訓練1か月、即応3か月で9か月とするなら、常時展開可能な隻数は2隻となります。
実際の即応期間がどれくらいかは不明ですが、例えば、米海軍の攻撃型原潜は6か月の作戦展開が規定となっています。その後2~3週間の休養期間となります。近海での活動がメインの海自であれば、隻数的に約3か月程度なのではと予想されます。
※著者想定の運用。実際の運用計画は情報公開されていない。
潜水艦の建造、修繕を行う造船所
では、この25隻の潜水艦は誰が建造し、どこで修繕されるのでしょうか。
日本では川重と三菱の2社が建造を行い、定期検査もこの2社が行っています。特に、建造した造船所で定期検査を受ける傾向があることから、修繕設備も稼働中の建造数と同等数が必要となります。
また、年次検査については両社のほかJMUも行っています。同社は潜水艦建造をしていないので、定期検査のノウハウもなければ設備もないと思われます。
川崎重工業
1905年、まだ潜水艦の建造ノウハウがなかった日本国では、アメリカからホランド型潜水艦を分解輸入し、横須賀海軍工廠で再び組み立て実用しました。そして、その設計図を元に初めての国産潜水艦が建造されることとなります。
川重はこの国産第一号となる第6型潜水艦を1906年に竣工させ、以後の帝国海軍の潜水艦の建造を行う重要な企業となりました。
第二次戦後、発足時の海上自衛隊は潜水艦を有しておらず、アメリカのガトー級が貸与されることになります。しかし、国産潜水艦の必要性は当然志向されていました。
そして、1960年、川重は戦後初の国産潜水艦おやしおを就役させ、現在も潜水艦建造を続けています。
建造、修繕施設
※2026年3月 グーグルマップより
潜水艦の建造、修繕は神戸工場にて行われています。毎年三菱と交互に建造を行っている都合、建造船台はフル稼働していると言えます。
設備の規模としては、建造船台1基のほか、修繕用の第4ドック、および浮ドック2基からなっています。特に第4ドックは最大2隻の潜水艦を入渠できる大きさで、神戸工場としての同時修繕可能な最大隻数は4隻と言えます。
なお、一般商船は坂出工場のほか中国合弁のNACKSやDACKSで建造されており、神戸は潜水艦と特殊船の建造、修繕拠点となっています。しかし、特殊船の建造が多いかといわれるとそうではなく、近年では第4船台で液化水素運搬船が、第7船台でジェットフォイルが建造された程度しかありません。
※各資料より著者作成。SSは潜水艦を意味している
三菱重工
古くから軍艦の建造を続けていた三菱ですが、潜水艦についても同社は高い技術力を有しています。
戦前においても神戸造船所は海軍向け潜水艦の建造拠点であり、戦後においてもそれは変わりません。川重による戦後初の潜水艦建造の後、潜水艦については川重と三菱が同型艦を建造し、以後海自向け潜水艦の建造を続けています。
川重は護衛艦などを建造していない一方、三菱はイージス艦などの護衛艦やフリゲート艦も建造していることに違いがありますね。
建造、修繕施設
※2026年3月 グーグルマップより
長崎や下関、横浜など多くの造船所を持つ同社ですが、潜水艦については建造も修繕も神戸造船所のみが行っています。
神戸では潜水艦以外を一切建造していないので、建造ドックは潜水艦のみに利用されています。これは修繕ドックも同様です。
造船所内には建造に利用される第1ドック、修繕に利用される第4ドック、および固定式浮ドック1基の計3基があり、第4ドックは2隻同時入渠が可能です。このため、三菱の同時最大入渠数は3隻となります。
なお、第2ドックは2019年に完成したドックであり、22隻体制に増艦されることから建造されることになりました。
※各資料より著者作成。SSとは潜水艦を意味している
JMU
ジャパンマリンユナイテッドは旧大手重工業系の造船事業などが集結した専業企業で、現在は国内建造量1位の今治造船傘下の子会社となっています。
同社はイージス艦ほかひゅうが型DDHなどを建造する艦艇建造で重要な企業です。しかし、潜水艦の建造はしておらず、あくまでも年次検査までの修繕を行っています。
なお、いつから修繕を行っているのかは不明ですが、川重と三菱で16隻体制下ではドックが足りていたので、22隻体制以降からなのではと思います。
また、同社で年次検査を受けるのは横須賀を母港としている潜水艦とのことです(潜水艦修理契約に関する 特別防衛監察の調査状況について)。
修繕施設
※2026年3月 グーグルマップより
JMUの潜水艦修繕は横浜事業所の磯子工場で行われています。
同工場は建造用のドック1基と修繕用のドック1基、浮ドック2基をもち、潜水艦の修繕は浮ドック”ねぎし”が対応しています。
修繕ドックはひゅうが型など大型艦が入居できる数少ない設備であり、潜水艦の入渠はあまり考えられません。浮ドック”さがみ”についても、イージス艦の整備を受けられる設備であり、よほど緊急の際でないと入渠することはないでしょう。
このため、JMUの潜水艦修繕は最大1隻と予想されます。
※各資料より著者作成。CVL/Hはひゅうが型以上を、SSは潜水艦を、DDGはイージス艦を意味している。
ドックは足りている?
では、今回の主題である潜水艦のドックは足りているのか、見ていきましょう。
既述の通り、日本造船業において潜水艦は建造事業者が2社で、船台とドックの計2基で行われています。毎年両社のどちらかで建造されることから、極めて安定していると言えます。
一方、修繕については定期検査が2社、年次検査は1社追加の3社が対応しており、ドックは6基です。法令で定めている都合、需要そのものは安定して存在しています。
※各資料より著者作成。
さて、海自が保有している潜水艦は現役稼働22隻、練習2隻、試験1隻で25隻です。そして、約10ヵ月かかる定期検査が3年ごとに1回、約3か月かかる年次検査が毎年行われます。
以上から、25隻÷4年=6~7隻が毎年定期検査を受ける計算となります。なお、この数値はあくまでも計算上であり、実際には定期検査の翌年に除籍などありえません。
そのため、定期検査を受ける隻数は、実際は年間5隻、多くとも6隻と考えられます。
一方、年次検査は毎年受ける都合25隻となります。しかし、必要な期間は長くとも3か月であり、入渠期間もそれほど長くないのではと思われます。
仮に定期でドック4基(うち2基は2隻同時)が占領されていると、残り2基で25隻を賄わなければならず、1か月入渠を続けると数が合わなくなります。実際はどうか不明ですが、かなり短い期間だけ入渠するものと予想せざるを得ません。
というよりも、年次で時間がかかれば定期が間に合わなくなるので、船底を確認したらすぐに海に戻し、岸壁へ係留するほかないでしょう……。
著者の予想
予想ですが、2028年に5隻が定期検査を迎える予定です(川重:もちしお、けんりゅう。三菱:じんりゅう、おうりゅう、じんげい)。
しかし、上図の通り三菱が3隻の定期検査を受けると年次検査へ対応することが困難なことがうかがえます(もちろん、定期10ヵ月を終えた後すぐに年次を入れる可能性もありますが)。このため、三菱が行うはずの年次検査の一部をJMUで受けているのではと思います。
もちろん、この時川重はドック3基のうち1基または2基のみしか利用していないことになるので、年次のみ三菱製の潜水艦を受け入れている可能性も否定できません。
なお、水上艦であれば年次では入渠しないこともあるそうですが、潜水艦はその特性上入渠する可能性が大です。しかし、どれくらいの日数入渠しているのかが不明です。
米海軍の原潜が約6~12か月入渠することを思うと、3~6か月程度だとは思われるのですが、はっきりとしたものは秘密でしょう。
ドックは足りている
以上より、潜水艦向けの修繕設備は現状足りている状況にあると言えます。
しかしながら、不測の事態、例えば有事のほか衝突事故などで緊急に入渠が必要となった際、川重なら何とか1基入れる可能性がある程度でしかありません。三菱には余裕がなさそうです。
なお、川重神戸は特殊船の修繕も行っている都合、急な入渠の場合ドックが埋まっている可能性も否定できません。これは、潜水艦に特化した三菱とは異なりますね。
足りているとはいうものの、その実態は”ぎりぎり足りている”のほうが正しいのかもしれません。
なお、もし定期検査が1年間入渠したままであるならドックは不足することになります。
終わりに
今回の投稿は、前回の米海軍の原潜がドック不足で稼働できず、戦力が低下したことから、日本はどうなのだろうかという疑問から書きました。
16隻体制下でもぎりぎりだった中、22隻体制になり三菱がドックを新設し、何とか同レベルの修繕体制をそろえている状況。今後定数を増加する可能性は低いものの、1隻でも増やすと崩壊する可能性があるほどシビアな現況と言えます。
建造能力については両社が毎年建造するなど安定した状況にあるものの、修繕については確かに何もなければ安定していると言えます。しかし、有事はいつ生じるかわからず、展開中にどのような事故にあうかも不明です。
その点でいうと、何かあった際にすぐに入渠できる確証がないのは、かなり危険な状況と言えます。もちろん、需要が極めて限られる設備に投資できるかと言うと、そう簡単な話ではありません。
国として別に造船所を建てるのか、補助金などを渡してドックを新設するのか、はたまた現状を維持し続けるのか。今後に期待ですね。
なお、重ねて書きますが、潜水艦については秘密が多く、本投稿もかなりの予想が含まれています。実はドックは過剰な可能性もあれば、すでに崩壊している可能性も考えられます。
もっとも、18隻から25隻に増加したのにドックは1基しか増えていないことから、決して過剰ということはなさそうでしょうけどね。
















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