三井造船が常石造船の子会社になる!?

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衝撃的なニュースがありました。

なんと、常石造船が三井造船を連結子会社化するというのです!

早速、詳しく見ていきましょう!!

三井E&S造船株式会社の株式の一部譲り受けと連結子会社化に関するお知らせ|プレスリリース|ニュース|常石造船株式会社|TSUNEISHI SHIPBUILDING Co.,Ltd.
常石造船のプレスリリースをご覧いただけます。

  

連結子会社化とは

そもそも、今回の連結子会社化とはどのようなことを意味するのか。

実は、昨年の2021年に常石は三井造船(正式には三井E&Sホールディングス(以下、MES-HD)傘下の三井E&S造船株式会社(以下、三井造船)のこと)の株式の49%を取得しており、すでに両社とも深い関係にありました。

ただし、株式の49%というのはあくまでも過半数未満であり、MES-HDとしては三井造船の親会社の立場を維持する方針でした。

※三井造船の株式はそれまで100%をMES-HDが保有していた。

https://kotoheihei.work/%E5%B8%B8%E7%9F%B3%E9%80%A0%E8%88%B9%E3%81%A8%E4%B8%89%E4%BA%95es%E3%81%AE%E6%8F%90%E6%90%BA%E3%81%8C%E6%84%8F%E5%91%B3%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8/

株式の過半数を手に入れる

では、今回の合意により常石は三井造船の株式の66%を取得することとなりましたが、この連結子会社化によりいったい何が変わるのでしょうか。

一般的に株式の過半数を取得すると言いうのは、親会社が何らかの決定を行ったことについて子会社は何も反対できなくなると言えます。

極端な話ですが、これまで三井造船は常石と提携しているものの何らかの決定事項について常石造船の同意を得る必要はありませんでした。株式の過半数を有しているためです。

ドラマや小説などで会社が乗っ取られる話がありますが、これはまさに株式の過半数を手に入れられたために生じてます。

株式の保有割合というのは、まさに力そのものと言えますね。

※もっとも、実際そのようなことはあまり起きませんが。

常石造船の目的は何なのか

さて、少し話が脱線しましたが、そもそも常石が三井造船の株式の過半数を手に入れてまでしたいことは何なのか。

今回の行動について、企業HPでは「両社がグローバル競争に勝ち残るためには、さらなる一体化を成し遂げて競争力の向上を図ることが不可欠」とあり、意思決定の迅速化に重きを置いたものだとうかがえます。

先の株式49%取得の際は、その目的を「MES-S(三井造船のこと:投稿者注釈)との関係を強化することで先端技術を活用した取り組みを加速し、顧客へ提供する付加価値向上を目指します。」としており、技術的な部分に重きを置いてましたね。

※なお、上記では今後の展望において「技術開発のほか新潟造船と三保造船所による共同設計や船台融通などによる競争力強化」も記載されていた。

技術開発の面

三井造船についてはファブレス化を進めており、現在自社の建造造船所を持ってはおりません。

※千葉工場は売却、玉野は三菱マリタイムとして分社化。

この、いわゆるエンジニアリング事業への転換については、かつて日本造船業に太刀打ちできない欧州造船業が行ったもので、実際に付加価値が高いのは設計や開発などのエンジニアリングの分野となります。

言い換えると、三井造船はそれだけの技術力や知識を有していると言えます。

三井E&S造船、ファブレス化を目指す?
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そのような、技術力に強みのある三井造船と、日本、中国、フィリピンの3か国で建造できるなど建造に強みのある常石は協業するにはとても良い関係であったと言えます。

また、昨今ではSDGsのように環境規制に対する圧力が強く、日本造船業においても次世代燃料船の開発に注力されてます。

今回の子会社化では、この分野における技術開発がしやすくなるのは言うまでもありませんね。

設備増大の面

ところで、三井造船には新潟造船とMES由良ドックという子会社、そして持分法適用関連会社である江蘇揚子三井造船有限公司(以下、YAMIC。三井E&S造船と三井物産、中国民営造船大手・揚子江船業の中国合弁造船所で、日本側の出資比率は49%)があります。

新潟造船は漁船や作業船などの小型船を中心に建造・修繕をメインとする企業で、逆に由良ドックはVLCCクラスの超大型船の入渠も可能な設備を有する修繕企業です。また、YAMICは中国にて新造船を行う企業で、カムサクラスのバルカーを建造してます。

なので、三井造船そのものがファブレス化したとしても、子会社にはまだ造船企業がいたわけですね。

そして、今回常石が過半数の株式を取得したことで、YAMICを除きこれら企業も手中に収まることとなります。

特に常石造船は2021年に神田造船の修繕事業を取得するなど、修繕事業も重視しておりました。

由良ドックはその点でかなりの戦力アップになると言えますね。

新造・修繕双方の規模拡大へ

出所:HPより著者作成。

新造船能力の面

出所:四国ドックHPより

設備

まず、四国ドックの建造船を見るとスモールハンディからハンディサイズまでを主としており、常石が強みとしているハンディマックスやカムサクラスではありません。

もちろん、商品の幅を広げるという面で強みになることは間違いありません。

一方、YAMICはハンディマックス級のバルカーの建造を行っており、また常石が中国に進出していることからかなりのメリットがあると思われます。

新潟造船は漁船などの小型船がメインですので、あまり大きな影響はなさそうですね。

技術

もっとも、いくら設備があってもよい船を作ることはできません。

常石はあくまでもバルクをメインに建造していた企業ですが、ここ最近はフィーダーコンテナ船などにも参入を始めています。

一方、三井はそもそもファブレス化を図っており、これは言い換えると所有する技術のみで経営ができるといえます。

昨今の次世代燃料船への期待からも、三井側の技術はぜひとも手に入れたいと思われます。

修繕船能力の面

修繕につては、国内でも有数の大きさを誇る由良ドックがあります。

つい最近まで川崎重工が出資していたことでも有名ですね。

また、神田造船を買収していたこともあり、修繕設備も拡充されておりますね。

結果的に、新造も修繕もバランスよく増強されたと見れます。

終わりに

常石と三井はオイルショック前から関係があったことは知っておりましたが、それがまさかこんな結末になるとは思いもしませんでした。

特に、コスト優位性のために海外に進出し建造するのではなく、ファブレス化により新造事業そのものを終了させるのは驚きです。

残念ながら、これでまた1社大手重工業企業の造船業が減少したと言えますね。

その一方で、常石にとってもまた今回の子会社化と先立っての神田造船の子会社化はかなり思い切ったことをしているように見えます。

ここ数年はコロナのため、あまり大きなニュースはなかったわけですが、今回のを機に再び業界が盛り上がってくれれば幸いですね。

それでは。

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