既にご存じのことと思いますが、2021年3月29日現在、スエズ運河は封鎖状態にあります。
これは、今治造船グループの船主事業会社である正栄汽船が有するコンテナ船が座礁し多ためです。
事故を起こした今治造船2万TEUコンテナ船の同型船。
※出所:今治造船HP 今治の船コンテナ運搬船より。
~お品書き~
そもそもスエズ運河とは
そもスエズ運河とは何なのか。
実は、この運河はパナマ運河と同じく、世界貿易に多大な影響を及ぼす需要な運河なのです。
というのも、アジアーヨーロッパ航路において、航路の選択は複数ありますが、最も距離が近くなるのがこのスエズ運河経由なのです。
ちなみに、世界貿易の10%以上をスエズ運河が占めているといわれてます(スエズ運河の「代替ルート」 ロシア、北極海航路をPRより)。
※このほかの航路については、喜望峰周り航路と北極海航路があります。一般には喜望峰経由となりますので、北極海航路は気にする必要はありません。
出所:The TelegraphよりEgypt revives Suez dream amid global trade slump andescalating insurgency。
スエズマックスとケープサイズ
さて、船のサイズですが、皆さんはスエズマックスやケープサイズなどを耳にしたことがあるのではないでしょうか?
このスエズマックスというのはパナマックスと同じくスエズ運河を通行できる最大船型を意味します。
そして、スエズマックスを通行できないサイズがケープサイズ、すなわち喜望峰周りとなる船です。
スエズマックス寸法
パナマ運河は水深の差が非常に大きく、複数の閘門を渡る必要があります。このためパナマックスサイズは全長や船腹などが大きな基準となります。
一方、スエズ運河は水深にそれほど大きな差はありません。しかし、巨大な橋が建てられており、全高に注意する必要があります。つまり、スエズマックスサイズは水深と高さが重要な基準となります。
※出所:港湾用語の基礎知識起訴知識スエズ運河より。
※航行可能な船舶は、喫水20.1m以下、船幅77.5m以下ですが、最大喫水は船幅に依存して変化し
ます。例えば、船幅が50mの場合のスエズ運河を航行可能な最大喫水は20.1mですが、船幅が77.5mの場合の最大喫水は9.1mです(同上より)。
今回事故を起こした2万TEU級コンテナ船「Ever Given」の寸法は下図の通りです。
出所:正栄汽船HP M.V. EVER GIVEN スエズ運河座礁事故に関してより。
スエズ運河封鎖
過去、スエズ運河が閉鎖されたことは数度あります。中東戦争によるスエズ運河封鎖です。
これにより、日本造船業はスエズブームと呼ばれるケープサイズ船の大量受注がなされました。
今回のスエズ閉鎖
中東戦争など、極めて政治的な要因でスエズ運河が閉鎖されたことはあるものの、今回のような事故による閉鎖は珍しいといえます。
では、このことで今治造船にどのような影響があるのか?
水先案内人の搭乗
まず、当該船舶には水先案内人が2名搭乗しておりました。
※どれほど優秀な船長でも、すべての水域の事情を把握するのは不可能です。そこで、航行が輻輳する水域を航行する際や入出港の際には、その水域特有の事情を熟知している専門家にアドバイスを受けることになります。その役割を果たすのが「水先人(パイロット)」です(国土交通省海事局海 水先人とはより)。日本でも大阪湾や瀬戸内海全域などパイロットの搭乗が必要な海域があります。
※出所:同上
つまり、船は船長指揮のもとにありますが、そのような水域での航行は水先案内人が操船指揮を執っているのです。このため、案内人の指揮を無視したなどでなければ、事故は案内人により引き起こされた可能性が出てきます。
「……操船はスエズ運河のパイロットの指示の下に行った」「パイロットが乗船できたということは、その時点では嵐の状態ではなく、その後、突然の砂嵐など急激な変化があったと推測する。船員のミスはなかったのではと予想しているが、断定はできない」(正栄汽船 檜垣社長が会見。「離礁後に原因究明・損害確定」より)。
船に問題があった?
人為的ではなく、そもそも船が不良を起こしていた可能性ですが、これはかなり少ないといえます。
急に舵が利かなくなった、あるいはエンジンが暴走し操船不能になったなどであれば、間違いなく製造元である今治造船に責任が追及されます。
しかし、当該船舶は故障などはなく、岸壁に乗り上げた現在でも「油漏れもないし、舵も動く。プロペラも問題ないと思う」(同上より)と、むしろその安全性を世界に示したといっても過言ではないでしょう。
今治造船の損害対応
では、もしも今治造船に損害責任が生じた場合、どれくらいの対応力があるのか。
今造は既に、「離礁費用、船の修繕費は当社が負担する」としており、また「運河の閉鎖による減収などの損害については今後、法律に則って検討していく」としてます(同上より)。
その際の賠償金についてもすでに保険に加入しており、「船体保険は日本の三井住友海上、東京海上日動火災保険、損害保険ジャパンの3社。油濁事故や人身事故に関わる賠償責任保険は海外のP&I(船主責任保険)クラブを起用している」(同上)とのように、万全を期しています。
今回のことが原因で今造が倒産するということはないと言えるでしょう。
終わりに
今回の事件はまだ解決されておらず、詳細な情報もまだ出てはおりません。
特に焦点となるのは、自己の原因が何であったかでしょうが、それは後に判明することと思います。
まずは、一刻も早く解決されることを願っております。
それでは。
2021年3月30日追記
本記事投稿日の夜中から翌日の早朝にかけて、当該船舶は離礁し、運河の通航が再開されました。
再開に関わったすべての方へ労いの言葉を。
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