国内建造量1位の今治造船と同2位のJMU(ジャパンマリンユナイテッド)の共同出資会社「日本シップヤード(NSY)」が1月1日付で設立され、新年5日より営業を開始しました。
先日記者会見が行われましたので、その内容を見ていきましょう。
※新会社の紹介以降はJMUによりプレスされた「日本シップヤード株式会社発足」をもとに作成しております。
~お品書き~
現状の造船市場
日中韓3か国の争い
世界の造船市場は日中韓3か国で8割を占めておりますが、その内訳は中韓が3割ずつで、日本が2割のシェアを保っております。
しかしながら、2020年は世界的に造船市場の再編が行われた年であり、中国では国営2社が統一することとなり、単体で世界シェアの20%を占める大企業が誕生することとなりました。韓国でも現代重工と大宇造船が合併し、世界シェア20%を占めることとなりました。特に、両国は産業が集約されており、例えば韓国では大手2社(現代+大宇、サムソン)で国内建造量の大多数を占めてます。
このような中、日本ではいまだに造船企業が多く存在しており、集約があまり進んでおりません。国内1位と2位の両社が提携を結ぶこととなりましたが、それでも国内建造量全体の半数程度にすぎません。
そして、企業規模によるメリットデメリットはもちろん存在するのですが、昨今のロット受注に全く対応できないという致命的な問題を日本は抱えております。
建造船種や顧客
また建造船種についても3か国では大きく異なり、韓国がLNG船や超大型コンテナ船などの高付加価値船に強みがあり、中国は中型コンテナやバルクなど幅広く展開しております。日本はバルクキャリアが圧倒的に多いのですが、同船種は低付加価値船に分類されます。
特に、ロット発注は海外船主によるLNG船やコンテナ船に多く、逆に単発的な発注は日本船主によるバルクキャリアが多くあります。愛媛オーナーなど日本船主と強い関係を持っていた日本は規模を追求する必要が無かったとも考えられますね。
戦後日本の造船略史
今でこそ見る影はありませんが、1956年から2000年まで、日本は造船大国と呼ばれ、受注量も建造量も常に世界1位でした。
状況が一変するのは1973年のオイルショックからでした。国策として行われた過剰設備の処理で、大規模な設備を多数保有していた大手重工業系企業は多数の設備を処理し、戦力を激減させました。さらに、大手企業は続々と多角化を進め、造船比重を下げたのです。このため、大手と中手の逆転が生じることとなりました。
そして、この設備処理量以上の設備を韓国が新設し、2000年台に世界1位に輝くのです。なお、その韓国はわずか10年程度で中国に抜かれることとなります。
新会社の紹介
それでは、新設されたNSYについての詳細を見ていきましょう。
新会社の目的
企業目的は「LNG船を除くすべての一般商船・海洋浮体構造物の設計、販売等」とされてます。
このLNGを除くというのは、MILNGという会社が存在しているためです。同社は三菱造船(三菱重工より切り離された商船事業のこと)と今治造船が共同出資する会社のことで、「LNG運搬船の設計および販売に関する業務」を事業内容としております。
三菱はモス型LNG船(船の上に丸いタンクがついているガスタンカー)の建造を主としており、一方今治はメンブレン型LNG船(平たいガスタンカー)を建造しております。顧客の要求に合わせてどちらでも建造できる体制が強みといえます。
※現状、三菱のLNG船建造拠点である香焼工場の新造船ドックを大島造船に売却する予定であり、実質的に三菱はLNG船から撤退することとなります。
出資比率
資本金が1億円で、今治造船が過半数の51%を出資し、残り49%をJMUとなります。
一般論では、比率の多い方が組織内部では高位に位置すると言え、今回のように過半数を占めるというのはJMUの言い分を聞くことなく今治単独で決断できる状況といえます。
ただし、代表取締役社長はJMUから選出されており、副社長に今治造船の役員がついております。両社合わせて約510名がNSYに出向となるそうですので、組織融和の観点からこういう経営陣にしたと考えられます。
特に、今治造船は今でこそ国内1位の造船企業ですが、鋼船建造は戦後になって開始した程度でしかありません。一方、JMUはIHI、日立造船、JFE3社の海洋・造船事業と住友の艦船事業が合併して誕生した企業であり、歴史も異なれば組織体制も全く異なります。
かつて来島船渠が佐世保重工の経営再建を委託された時、来島側は佐世保側のプライドの高さに驚いたという記載が多くあります。かつての佐世保海軍工廠であり、VLCCなどを建造していた佐世保と比べ、来島は小型鋼船を建造していたにすぎず、格下だと見ていたためです。今治とJMUがこのような問題に合う可能性を否定できません。
組織体制
取締役会のメンバーを見ると、今治とJMUが各5名づつ籍を置いてます。監査役2名にも各1名づつとなっており、両社平等といえますね。
営業本部では本部長はJMU、副部長が今治からなってます。反対に設計本部では本部長に今治から、副本部長2名は両社より1名づつです。
役員や役職で見ると、あまり両社に差はないように見えますね。
また、設計部門で見ると、横浜オフィスに基本設計部が置かれることとなり、丸亀オフィスは第2設計部となりました。これまで両社が有していた開発能力を横浜に統一することで、戦力強化されることとなります。横浜には商品企画部も置かれますので、シームレスな開発環境となりそうです。
提携により何が変わる?
では、両社の提携により一体何が変わることとなるのか。重要なのは、造船所の統廃合は行わないということです。
造船所とロット受注
現状、商船建造設備として今治側に10か所、JMU側に3か所の造船所があります。今治は船の百貨店を目指すというように小型から超大型までの全てのサイズ、船種を建造できる体制にあります。一方、JMUはその設立の経緯から大型船以上に集中することとなってます。
つまり、両社の統合により大型船以上建造可能な設備が増加するとともに、JMUがこれまで受注対象としていなかった中型船などの受注が新たに期待できます。今治にとっても大型コンテナ船のロット受注などの実績はありますが、より一層受注環境が整ったこととなりますね。
参考までに、2万TEUコンテナ船は全長400m、幅58.5m、高さ32.9mです。今治の丸亀新ドックと西条工場にて建造されました。
ロット受注
そして、大型船設備の増加により、ロット受注への対応が可能となりました。これにより中韓が戦っているロット発注市場に参入する資格を得られたこととなります。
というのも、2017年のデータですが、日本の受注は3隻以下が100%を占めてました。これへ手持ち工事に余裕があったと言うこともありますが、一番は設備が不足しておりそもそも受注競争に参加できなかったのです。
※出所:海事産業の生産性革命の深化のために推進すべき取組についてより。
世界規模で見ると3隻以上発注が過半数を占めるわけですので、世界誌以上のたった4割の中で日本は戦っている事となります。
建造船種
建造船種についてはそれほど大きな変化はありません。今治とJMUが重なる部分もありますが、JMUは大型主体ですので、ハンディサイズバルカーなどは今後も今治が担うこととなります。また、コンテナ船などではJMUがまだ建造していない2万TEUサイズなどを今治は建造しておりますので、むしろ製品ラインが増加したと言えるでしょう。
※JMU舞鶴にてかつて中型船が建造されていましたが、同地から商船事業は撤退してます。
また、今治はFPSOなどの海洋構造物や護衛艦などの建設、建造は行っていない一方、JMUには同船種の実績があります。かなり前の雑誌で今治は「将来的には客船や軍艦も作ってみたい」と言っていたはずなので、ある意味叶うこととなりますね(客船は建造しました)。
終わりに
新会社の設立で、やっとロット船市場に参入できることとなります。
ただ、世界で名を残している中韓に対してどこまで戦えるのかはまだまだ分からない部分です。
一方、コンテナ船建造は着々と実績を残しており、先日もONE(川崎汽船、商船三井、日本郵船定期コンテナ船事業を統合した会社)から2.4万TEUコンテナ船を6隻受注しました。同船は今治とJMUで建造される予定です。
今後どのように動くのか、非常に楽しみですね!
それでは
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